この仕事に携わっているといろいろなことに気付く。
”好み”という言葉もそのひとつで、十人十色とはよく言うが正に人それぞれ
嗜好は様々であり、色や形は当然のこと、感性なども含めると
それは無限に拡がり行きつくところがない。
さて、我々はそんな感性を売り物とし、生業としている。
”美”を追求し、先人達が極めてきたぎをん齋藤の世界をより一層広げるため、
店構えはもちろん、もの作りにおいても歴史や伝統に則り忠実に今も糸を紡いでいる。
また我々のその感性、もの作りを皆様が共鳴し、感動してもらえることは
言葉に表すことのできない究極の喜びであり、やりがいでもある。
そしてそれには必ず人との関わりがあり、美を求めることを通じて、共感や感動が
エッセンスとなってより強い絆で結びついている。
以前、あるお客様のところに誂え(琳派の訪問着)を納めにいったときのこと。
「美に対する共鳴や感動」は作り手とこちらの感性がぶつかりあった瞬間に生じる、
貴重な心の結びつきだ、とまじまじと言われた。
その時、その尊さに気が付いたのを今でも忘れない。
またずいぶん前だが、ある大徳寺の高僧が私にこういった。
商いとはものを売るのではなく、自分を売りなさい、と。
ありがたいお言葉である。