今、ある古裂をもとに慶長小袖の復元を染帯でおこなっている。
その裂は前会長が蒐集したもので、齋藤コレクションの一つ17世紀初頭の慶長小袖である。
生地は細かい平織で地色は経年劣化した現在、慶長の黒というよりは少し茶がかった
”墨色”と言った方が正しく、風合いの良い地色となっている。
文様は慶長の特徴である場面を埋め尽くすかのような刺繍と摺箔で構成され、
疋田、草花、霞の模様を惜しげもなく贅沢に表現している。
それらは桃山時代の特徴であった大胆から半世紀を経て、
緻密へと変化してきたことがわかるすばらしい江戸初期の古裂である。
さて、今回はその裂をもとに染帯として復元しようと細部にまでこだわって忠実に再現している最中。
使用する生地は慶長にもよく登場する入子本紋(綸子)、地色も慶長の黒というよりは
実物と同じ墨色に染め、摺箔も400年前と同じく掠れ(劣化)を施し、
全容はお見せできないが、ようやく刺繍に掛かっている。
私は以前にも紹介したように前職は裂の修復士だったので、復元の難しさは十分に
理解しているつもりである。
最も難しいのは今の原材料で約400年前のものを再現しようとするとどうしても
個々の材料が放つ新鮮さ、力強さが邪魔をし印象がかわってしまうことが多いのだが、
現在の技術と忠実な配色でまったく遜色なく仕上げることができる。
吉と出るか凶とでるかはそれに携わる人のセンスにかかってくるといっていい。
どの材料を使い、どういう配色をし、どの技術を駆使して忠実に再現していくか
これが醍醐味であり、やりがいであるからやめられないのである。