先日、女将から辻が花の帯を見せられた。
自身の持ち物であるそれはとても簡素な帯でタイコには柄が藤と菊しかなく、
”仕上げ”と呼んでいる墨描きは装飾というより、その存在に気付かないほどの淵括りで
終わっている代物である。
特に強烈な印象だったのはその素朴な帯の地色がとても魅力的な深い緑で染められており、
その色気と華やかさにはさすが!とつい口からこぼれたほど美しい色合いであった。
実はこの染帯、若かりし頃の先代が初めて辻が花の制作に挑んだ時のものらしく、
それはどこか控えめで慎重な趣と緊張感があり、またどこかおっかなびっくり
というところも見て取れる。
しかし全体の雰囲気はとてもすばらしく、桃山初期の辻が花の印象が色濃く
表現されていると直感したとても初めての作品とは思えない出来栄えである。
当時のぎをん齋藤は花柳界の専門店であったため、所謂一般客はそれほどいなかった。
商品は主に裾引きや友禅ものといった”はんなり”した着物ばかり作っていたので、
手の込んだしゃれた普段着や町方の粋なものなどを作るということ自体、周囲(先々代など)
からの反対もあり、たいへんだったろうと想像できる。
だからこそ今もその作品を元に我々も辻が花を作り続け、”ぎをん齋藤の辻が花”となっている。
この辻が花は染名古屋帯、まだ仕上げ(墨描き)が施されていない状態のものだが、
その表情は豊でふくよか、桃山らしい絞りの技法が十分伝わる作品となった。
ぎをん齋藤の初代辻が花から約40年経った今の品である。